神奈川県高等学校教科研究会

社会科部会公民科会活動報告(社会科部報第91号より)

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「公共」テスト問題づくり(社会科部会報第91号より、2023年10月11日発行)
 「公民」分科会にはテスト委員会があります。今年度は、「公共」の試験問題をどのように作成するのかという目標を立てました。
 これまでは「現代社会」の問題を作成するにあたり「幸福・正義・公正」の枠組みをどのように問いとして設定できるのかを検討してきました。今回のテーマは、これまでのテーマと同様に大きなものとなっています。
 テスト問題といいますと、空欄を補充したり、用語を並べ直したりするといった記号操作の繰り返しが思い浮かびます。知っているか知らないかを問う問題は必要です。しかしこれだけではクイズ問題になってしまいます。科目がもつ特性をどのように生徒に問いかけるのか。個人の人生レベルのものもあれば社会生活、公的生活に関わるものもあります。法的リテラシーや合理的な意思決定の技術を身につけたかどうかを計測するには、単なる空欄補充では無理があります。問題を解きながら、思考力を仲ばす作問はできないのかを検討し続けています。
 とはいうものの、テスト問題作成には守らなければいけない決まりもあります。出題内容は正確なものか。問題に妥当性はあるのか。普通の授業を受けていれば解けるといった適切性はあるのか。基本に立ち返りながら、新しいタイプの問題づくりに挑戦しています。定期テストづくりに壁を感じたり、新しい問題づくりに関心を持ったりしている先生方と研究し続けていきたいと思っています。もしもよろしかったら、公民科テスト委員会の扉を開けてみませんか?お誘いです。
(県立三浦初声高等学校 金子 幹夫)

夏季の研修会から(社会科部会報第91号より、2023年10月11日発行)
 今年も公民分野では多くの研修会が東京で開かれた。それらについて簡単に報告したい。
 金融庁主催の先生のための金融教育セミナー(7月27日)は、『世界インフレの謎』を著した渡辺努教授のメイン講演が用意されていた。しかし講義時間が短く、専門的な説明もなく期待外れに終わった。
 翌日の28日は全国公社研が東京都立赤羽北桜高等学校で開かれた。かつては2日間にわたって開催されていたが、今年は1日での開催であった。基調講演は渋沢栄一の5代目子孫である澁澤健氏の講演であった。Made in Japan からMade with Japan という話をはじめ、授業のネタになりそうな話が多かった。 この研究会は、倫理と政経に分かれての実践報告や、学習指導要領の作成等を担当する文部科学省の教科調査官の話を直接聞けるなど、盛りだくさんな企画の研究会である。
 8月18日には法務省で法教育セミナーが開催された。法務省に入れる貴重な機会である。また法務省側の参加者として裁判官や法務省関係者が多く参加しており、少人数に分かれての情報交換では、法曹関係者の本音のトークを聞きだすこともできた。
 8月21日は経済教育ネットワークによる経済教室が慶応大学三田キャンパスで開かれた。今回は校務の関係で前半しか、参加できなかったが、金融に関する同志社大学の鹿野嘉昭先生の授業で意外な発見があったので、紹介をしたい。
 鹿野先生は金融について銀行のバランスシート(貸借対照表)を用いて説明をされていた。これらの説明と、私達が信用創造の授業で行っている説明には大きな差があった。
 高校の信用創造の授業では次のように教えていると思う。現金の預け入れがあると、銀行は支払い準備を除いた全額を「自動的」に貸し出す。この貸し出された金額が、銀行の口座に預けられると、また支払い準備額を除いた金額が「自動的」に貸し出される。
 これがくり返されると、1/支払準備率だけ通貨が創造される。例えば支払い準備率が10%なら100万円の現金は信用創造によつて10倍の1000万円になる。
 銀行の貸し出し業務とは、こんな単純なものであろうか。実際には住宅ローンを組むにしても色々と厳しい審査があったりする。
 この点について質問すると、鹿野先生からは次のような答えがあった。前述の信用創造の説明は、優良貸出先が無限にあるような状態での話で、現実の銀行の貸し出し業務とはかなり異なること、信用創造の量も10倍になるようなことはなく、せいぜい3倍程度であるとのことだった。
 冷静に考えてみれば、銀行がこのように自動的に貸し出しを行うならば、バブル崩壊後の「貸し渋り」や「貸しはがし」などは発生していないはずである。盲目的に従来の信用創造の説明をくり返す時代ではなくなっていると感じたセミナーであった。
(県立湘南高等学校定時制 三橋 健彦)